お墓の隣組②~男子の本懐の二人


男子の本懐

今回紹介するのは、城山三郎の小説「男子の本懐」の二人の主人公の墓だ。

二人とは、昭和初期、世界不況のさなかに首相だった人物で、もう一人はその内閣で大蔵大臣だった人物。
共に己の信念を貫き、その中で暴漢に襲われ命を失っている。

その二人と家族の墓が、仲良く並んで建っているのだ。

青山霊園で並ぶ墓所

港区の青山霊園。

向かって右側が、浜口雄幸(はまぐち おさち1870-1931)と浜口家の墓所。

左が、井上準之助(1869-1932)と井上家の墓所だ。

浜口の肖像

浜口雄幸は、高知の林業を営む家に生まれた。

幸雄と命名されたが、父親が出生届けを出す途中で酒を飲み、酩酊状態で「雄幸 おさち」と届け出てしまったというエピソードがウィキペディアに載っていた。

大蔵官僚から代議士となり、昭和4年(1929)7月から1931年4月まで総理大臣を務めた。

時はまさに大不況時代。その難局を乗り越えるため、浜口はあえて緊縮財政を断行する。

そして軍部の反対を抑え、ロンドン海軍軍縮条約を結び「軍拡より軍縮」に舵を切る。

井上準之助

浜口が大蔵大臣に起用したのが、井上準之助(1869-1932)。

大分県日田の出身。

東京帝大卒業後、大蔵省に入り日銀総裁を務め、関東大震災の翌日、大正12年9月2日に大蔵大臣に就任、震災後の金融の混乱に対応した。

ウィキペディアには

「日本経済聯盟会(日本経済団体連合会の前身)の結成や東洋文庫の創設に尽力。また、日本へのゴルフ普及の功労者でもある」と、あまり知られていない横顔も紹介されている。

二人は、緊縮財政、軍縮で軍部に抵抗したことに不満を抱く者から、命を狙われることになる。

遭難現場

ここは、東京駅の新幹線口へ通じる階段。

写真右側の床に菱形の模様が見える。

昭和5年11月14日、浜口雄幸が陸軍の演習の視察などのため東京駅を訪れた際、至近距離から銃撃を受けた「遭難現場」だ。

浜口は日記の中で、その時の様子を次のように記している。

「・・・音ガシタト思ウタ一刹那、自分ノ下腹部ニ異常ノ激動ヲ感ジタ」

この時、浜口は手当によって一命を取りとめた。

しかしその後、野党から国会への出席を要請され無理をしたことで、翌昭和6年8月26日に亡くなっている。

井上の墓石裏面

こちらは、井上準之助の墓石の裏側。

「昭和七年二月九日 薨(こう)」と彫られている。
(薨とは、死ぬ。みまかる。 日本では皇族、または三位以上の人に用いたと「新漢語林」に書かれている)

浜口の死からおよそ半年後、次の総理大臣候補であった井上準之助もまた、血盟団の一員によって暗殺された。

選挙の応援演説に出かけた先で、狙われたのだった。

憲政記念館の企画展

去年11月、国会近くの憲政記念館で開かれた企画展に、当時の井上の心情を記したものもあった。

それには、当時の浜口内閣に反対する意見について

「政情ニ対スル意見ハ・・・軍部ニ媚ムトスルモノナレバ・・・」とある。

軍部に媚び、その意を汲んで反対するものが多いということだ。

つまり、軍部に抵抗したことに不満を持つものが多くいることを知っているが、
しかし、それに屈することなく信念を貫こうとする意志が、そこに読み取れた。

城山三郎は作品のタイトルに「男子の本懐」とつけた。

ウィキペディアには、浜口の言葉として
難局に正面から対峙し、「玉砕しても、それは男子の本懐である」と述べたことが載っている。

不況下に緊縮財政を行うことの是非については、多々議論がある。

現在でも、大きなテーマの一つだ。

城山三郎は、その是非はともかく、二人の信念を曲げない生き方に共感したのだろう。

青山霊園で並ぶ墓所

もう一度、二つ並んで建つ両家の墓所を見てみる。

両家の墓所はよく似た作りで、ぴったりと隣り合わせに建っている。

それは、二人の生前の交友を知る遺族の計らいだろう。

そしてもう一つ、この隣り合わせの墓からは、二人の無念な心情を後世に伝えたいという思いも伝わってくるようだ。

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プロフィール

め組のかった

Author:め組のかった
「惑わず」の年から走り始めて四半世紀。還暦で初フルマラソンを走り、2010年には66キロのウルトラを制限時間ギリギリで完走。現在も月に200キロ以上を目標に走り込みながら、写真を撮っている。
このブログは、ジョギング中に撮り貯めた写真によるフォトエッセイを目指している。
タイトルは「おくのほそ道」をもじってみたのだが、さて、わかるかなあ?

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