「放送人の世界」で聞いた話


ポスター

愛宕のNHK放送博物館で開かれた「放送人の世界」に話を聞きに行った。

「様々な放送人の業績を顕彰・伝承するための上映会、公開セミナー」で第14回のゲストは佐藤幹夫氏。
元NHKのドラマ番組部で幾多の名作を演出したディレクターで、最近では「坂の上の雲」の脚本、演出を担当している。

日程1

セミナーは2日間にわたって行われ、一日目の上映作品は、この4本。

私は2日目に参加したのだが、「破獄」のロケの際のエピソードが二日目にも紹介されていた。
それはこんな話だった。

脱獄を繰り返す囚人役の緒形拳さんに、「田んぼの中を走ってほしい」とのお願いをしたら「(そんなことをしたら)足を怪我してしまう。本人がまずやってみろ」と言われ、自分でやって見せたのだという。

演出家と常に真剣勝負を挑んだ緒形拳さんらしいエピソードだが、逆に言えば演出家もそれなりの覚悟をもって臨まなくてはいけないということだ。

「自分のイメージしている芝居を役者さんに演じてもらうのだから、自分でやって見せることも仕方がない。
演出家に必要なのは体力です」と話していたのが印象に残る。

日程2

私が参加した二日目のプログラム。

この3本は、それぞれ全く違った内容で作り方も異なる。
しかし、それぞれ一級品に仕上げ、大きな賞を受けている。

実は、私は彼を若いころから知っている。
20代の彼は、甘いマスクの二枚目で、その頃から「ドラマづくり」を目指していた。

目的意識が明確な人生に敬服もしている。

久しぶりにその懐かしい顔を見ようと、参加を申し込んだのだった。

ウルトラセブン

最初の上映作品には、脚本を書いた市川森一さんの役で香川照之さんが、ワンカットだけ出演していた。

なんとも贅沢な役者の使い方だと思った私は、上映後の休憩時間に立ち話で聞いてみた。

「香川照之という名優をたったワンカットとは、予算の無駄遣いでは?」と。

それに対して「いや、あの頃の彼は、どんな役でもいいからと売り込みに来たので出てもらった」との話。

香川照之という役者は「東大出身という自分のキャリアを捨て、役者になるために様々な仕事、役柄に懸命に取り組んできたひと」という話だった。

それから17年後、香川照之は「丘の上の雲」で、正岡子規役を熱演することになる。
これも、一つの縁なのだろう。

司会の今野勉さんとの対談の中で、彼は「香川さんは子規を演じるにあたって、毎日コーヒーゼリー2粒ほどで15キロも痩せ、妹役の菅野美穂さんは、その痩せ細った体を見て泣いてしまったほど」と役に取り組む香川照之の努力を語っていた。

そして、写真で見る正岡子規の容貌にそっくりだったことに、今野さんも彼も「驚いた」と話していた。

蝉しぐれ

「蝉しぐれ」は放送当時から評判になったドラマで、私も毎回楽しみに見た覚えがある。

内に秘めた思いを抑えに抑えた主人公の男女。
その気持ちを見事に表現することで、逆に封建時代に生きた人間の切なさが伝わってきた。

この作品では、大胆にもモンゴルの「ホーミー」や中近東の民俗音楽を劇中のクライマックスに使うという冒険もしている(音楽は小室等)。
それが見事に「藤沢周平」の世界と融合していた。

坂の上の雲

そして、放送史に残る大作の「坂の上の雲」。
生前、作者の司馬遼太郎さんが、好戦的に描かれるのを危惧したり、原作に忠実に再現することの困難さから、映像化を誰にも許可することのなかった作品だった。

司馬さんの没後、夫人と粘り強い交渉を続け、許可をもらって制作がスタート。
しかし、脚本を担当した野沢尚氏が亡くなり、脚本の執筆も担当することになる。

製作が動き出し、第一回の放送が始まるまで7年、そして放送が3年に亘っていたから足かけ10年にも及ぶ大仕事となった。

脚本を書くにあたっては、司馬さんが小説を書く際に参考にした文献・資料にはすべてあたったという。
司馬さんが、何か作品を書くときには、神田の古書店街から該当の資料が大量に姿を消してしまうといわれるくらいだから、その量は膨大な量になる。

坂の上の雲、画面

そして、その年月の中で、CG技術の飛躍的な発達があった。

今野さんは「CG技術が発達し、戦闘シーンがリアルになったことで、逆に戦争の悲惨さを表現していた」と話していた。

作品は司馬遼太郎の心配を乗り越え、さらに「明治」という時代の精神と、その時代に生きた人たちの「こころざし」とを見事に表現した作品に仕上がった。

その制作の核になって活躍した彼に、心からの拍手を送りたいと思う。

NHKを退職した現在は「よしもと」の顧問として、舞台劇の演出にも取り組むとのこと。

戦時下のお笑い芸人による慰問団「わらわし隊」の物語だという。
一体、どんな劇を作り上げるのか楽しみだ。

彼のさらなる活躍を念じてやまない。
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プロフィール

め組のかった

Author:め組のかった
「惑わず」の年から走り始めて四半世紀。還暦で初フルマラソンを走り、2010年には66キロのウルトラを制限時間ギリギリで完走。現在も月に200キロ以上を目標に走り込みながら、写真を撮っている。
このブログは、ジョギング中に撮り貯めた写真によるフォトエッセイを目指している。
タイトルは「おくのほそ道」をもじってみたのだが、さて、わかるかなあ?

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